目標は「こころのユニバーサルデザイン」社会の実現

2023 年 4 月 3 日

Tokyo Sexual Health インタビュー

認定NPO法人 魅惑的倶楽部 理事長 鈴木 恵子さん

魅惑的倶楽部(エキゾチッククラブ)は、静岡県浜松市を拠点にさまざまな活動を行う認定NPO法人です。ハンディキャップのある子どもや大人たち、LGBTQの人たちなど地域の少数派の声に耳を傾け、みんなが心地よく、自分らしく生きられるように、当事者、企業、行政、各種団体、地域の人々と連携しています。理事長の鈴木恵子さんにお話をうかがいました。

障がいのある人もない人も一緒に楽しめるように


-魅惑的倶楽部というのは印象的な名称ですね。

鈴木さん 名称の由来について、よく聞かれます。私たちの活動の始まりは、知的障がいのある人もない人も、同じように余暇を楽しめる環境をつくるための支援でしたが、「障がいのある人を支援する会」「障がいのある人を助ける会」のような名称にしたくありませんでした。名称で入り口を狭めたくなかったからです。障がいの有無に関係なく、一人ひとりの個性や得意なことを生かせる場、多様な人々が一緒に1つの目的を達成する場にしたい、そういう思いが名称に込められています。「障がいをもつ子どもたちに楽しくワクワクする気持ちで参加してほしい」という思いからの発案です。

-どんな活動をしている団体か興味が湧きますし、先入観をもちにくいですね。

鈴木さん 発足当時は名前から怪しまれたりもしましたが、活動内容を話せば誤解は解けますし、すぐに覚えてもらえる名称だったと思います。初対面の方にも、「お名前は聞いています」といわれることが増え、最近では「エキゾ」と略して呼ばれることもあります。

-設立の経緯を教えてください。

鈴木さん 設立のきっかけは浜松市の職員だった長田さんとの出会いです。長田さんには知的障がいと聴覚障がいのあるお子さんがいて、養護学校(現、特別支援学校)に通っていたのですが、一般社会とのつながりがほとんどないということをお聞きしました。私はもともと浜松市の公立中学校の音楽科教諭でしたが、出産を機に退職。退職後は音楽に関わる地域活動をしていました。障がいがあっても音楽をはじめとする楽しみを分かち合える場をつくろうという意見が一致し、1999年に立ち上げたのが「魅惑的倶楽部(エキゾチッククラブ)」です。2002年にNPO法人化、2015年に認定NPO法人となり、現在は、正会員と賛助会員を合わせて36人です。

「Magic Heart コンサート」を原点に幅広く活動


-余暇支援としてどのような活動を始めたのですか?

鈴木さん 障がいがある人も参加できるコンサートです。全国の公立の教育機関で導入された学校週5日制は、社会体験や自然体験などの活動の機会を子どもたちに提供し、そこから「生きる力」を育むことを目指しましたが、障がいのある子は地域の子ども会や催しものに参加する際、保護者やヘルパーさんが付き添わなくてはなりません。また、知的障がいのある子は、じっとしていられず自由に走り回ったりするイメージをもたれているため、なかなか受け入れてもらえず、土日が休みになっても、地域の活動に参加することができず、ただ家にこもる日が増えただけでした。さらに、長田さんから「子どもが声をあげたり踊りだしたりするので、コンサートに連れて行けない」という話を聞いていたものですから、知的障がいのある子も思いきり楽しめるコンサートを企画しました。
特別支援学校の体育館を借り、障がいの有無に関係なくみんなで楽しむ「Magic Heart コンサート」を開催しました。現在も2カ月に1回、地元のミュージシャンやアーチスト、吹奏楽団などをゲストに招いて開催しています。2022年からは浜松市文化振興財団と共催し、同財団が所管するサーラ音楽ホールを会場に使わせてもらっています。そして、「Magic Heart コンサート」は当法人の原点です。

-現在は幅広い活動をされていますね。

鈴木さん はい。「Magic Heart コンサート」のほかに、「魅惑的生人四季(せいじんしき)~障がいのある人とともに祝う成人式」を行っています。これは障がいのある人のための成人式をしてほしいという要望を受けて始めました。自宅から離れた特別支援学校に通っている人が多く地域に馴染みがないことに加え、市の成人式への受け入れも難しいという実情がありました。障がいのある人やその保護者が歩んできた道のりを思えば、20歳を祝福したい気持ちは人一倍のはず。当法人がめざす、「こころのユニバーサルデザインの社会」の実現に必要な取り組みだと考えました。毎年、さまざまなゲストを招き、新成人と保護者、ボランティアなどみんなで歌ったり踊ったりして、楽しいお祝いの会を開催しています。

エイズ予防啓発活動「レッドリボンプロジェクト」


-鈴木さんたちが取り組んでいる「レッドリボンプロジェクト」について教えてください。

鈴木さん エイズ予防啓発活動は2000年頃に始めましたが、2005年からは、「レッドリボンプロジェクト」として毎年11月に全日本オートレース選手会浜松支部、エイズ予防財団とともに浜松オートレース場で「レッドリボンカップ」を開催しています。さらに、毎年11月から翌年1月まで、はままつフルーツパーク時之栖(ときのすみか)で開催されるイルミネーションイベントに、「レッドリボンネオンプロジェクト」として、地元企業の協力で、レッドリボンのネオンサインを展示しています。また、NPO法人メンタルネットとよかわ(愛知県豊川市)が運営するジェラート&スイーツショップ「Send Happiness」の協力で、パッケージにレッドリボンをあしらったジェラートの販売など「レッドリボンスイーツプロジェクト」を実施しています。

-活動を続けてきて、どのような変化を感じますか?

鈴木さん 最初は、世界エイズデーに、街中でコンサートを開催し、啓発冊子とコンドームを配布していましたが、コンドームは持って帰っても冊子はゴミ箱に捨てられていました。ときには苦情をいわれることもあり、なかなか活動への理解は得られませんでした。そのようなときに、市職員だった前副理事長の長田さんが浜松オートへ異動したのです。レース場へ行ってみると60~70歳代の男性がたくさん来て、レースを楽しんでいました。当時HIV感染者は中高年の男性に多かったので、ここなら、この人たちにきちんと伝えられるのではと思いました。
選手たちも、人権擁護や社会の役に立つ活動をしたいとおっしゃっていて、2004年11月、浜松オートで啓発活動ができることになりました。選手は布のレッドリボンをレースの勝負服の右肩に付けて出走。私たちは特設のブースで啓発冊子とティッシュを配布しました。ゲストに著名人や女子プロレスラーの神取忍さんなども招きました。すると想像以上に多くの人が足を止め、「何だね、そのレッドリボンというのは」と声をかけてくれたのです。ここでは、手渡した冊子が捨てられることはほとんどありませんでした。オートレース場に来る人に対して少し怖いイメージをもっていた私にも偏見があったことを気づかされました。
翌2005年からレッドリボンカップを本格開催し、エイズ予防財団との共催も実現して18年続いています。いまでは来場者の8~9割がレッドリボンの意味を理解し、お客さんのなかには購入したレッドリボングッズを毎回付けて来てくれる人もいます。
資金がなく、何事も手づくりで始めた取り組みですが、ミュージシャンによるライブステージも恒例の行事となりました。浜松オートにはCS放送スタジオがあり、そこから全国へレース情報が発信されますが、ここでもアナウンサーたちは熱心にエイズ・HIVの予防啓発をしてくれます。多くの協力者に恵まれ、その縁が活動の拡大につながっています。
また、レッドリボンカップをきっかけに知り合った神取忍さんは、現在当法人の理事となり、魅惑的倶楽部の顔として多岐にわたって活動してくださっています。

-レッドリボンカップの開催にかかる資金はどうしているのですか?

鈴木さん エイズ予防財団の援助と浜松オートの協力金、選手からの寄付金などで賄っています。これらを元手に啓発ポスターや冊子も作り、ポスターは講演に伺った市内の中学校や浜松医療センターにも掲示されています。

-一般市民の啓発は進んでいますか?

鈴木さん レッドリボンカップで知り合った方の意識の変化は早かったと思います。80歳くらいの男性が、孫に伝えるからと啓発冊子と一緒にコンドームを持って帰られました。特設ブースでは看護師、保健師、薬剤師の協力を得て血圧測定や健康相談、お薬相談も行っています。ここはエイズやHIVに特化した相談ではないのですが「HIV検査はどこで受けられるの?」と聞かれることもあります。オートレース場で相談事業を1年中やればいいのにという方もいて、関心の高さを感じます。選手やゲストが私生活でもレッドリボンのピンバッジを着けてくれて、「これはエイズの人やHIVに感染した人を差別しないということ」と周囲の人に話してくれているようです。こういう人たちを増やしていくことが、一般市民の啓発につながるのではないでしょうか。
浜松医療センター感染症内科感染症管理特別顧問の矢野邦夫先生には、このような活動を浜松市以外でもするように勧められています。専門の先生に評価してもらうことは私たちにとって励みです。

活動の根っこにあるのは「命の大切さ」


-差別や偏見が生じるのはどうしてだと思いますか?

鈴木さん 障がいのある人やHIVのことを正しく知らないからだと思います。知らないと、障がいのある人は理由なく危害を加えるんじゃないか、HIVは側にいるだけで感染するんじゃないかと恐怖を感じます。でも、実際にはそのような危険はなく、正しい知識があれば怖くありません。
なぜ障がいやHIVの活動をしているの? と聞かれることもありますが、私たちの活動の根っこにあるのは「命の大切さ」。障がいのある人も、エイズの人・HIV陽性の人も、LGBTQの人も、命の大切さはみんな同じです。
私たちが学校で行う「命の講和『うまれてきてくれて、ありがとう』」には、性教育の要素が含まれています。「避妊については話さないで」という学校もありますが、性交渉の結果、“自分”という存在がこの世にあるのに、そこを正しく伝えないと「私は何で産まれてきたの?」「私って何?」という疑問が湧くと思うのです。
中高生と話しをすると、自己肯定感の低い子が多いことに驚きます。コロナ禍に、そのような中高生と地元のミュージシャン「Jam9」が「コロナ禍を乗り越えて行く歌」を作るプロジェクトを企画しました。たった数カ月のプロジェクトでしたが、大人が涙を流して感動する素晴らしい楽曲が出来上がりました。子どもは大人が思うよりも外とつながる力が強く、自己肯定感をもつことで、自分の命も人の命も大切にするという当法人の根っこの思いにつながっていくと信じています。
2022年に浜松市で開催された「第36回日本エイズ学会学術集会・総会」の市民向けイベントや市民公開講座で中高生の合唱を披露させてもらったのは、子どもたちにレッドリボンのことや、歌で社会貢献ができることを知ってほしかったからです。

-最新の活動や今後の抱負を教えてください。

鈴木さん このたび「リボンプロジェクト浜松」を立ち上げました。HIV・エイズ予防啓発活動のレッドリボンに加え、乳がん啓発のピンクリボン、コロナウイルス感染症2019に関する差別・偏見防止を啓発するシトラスリボン、女性への暴力撲滅を啓発するパープルリボン、LGBTQの尊厳などを象徴するレインボーリボンの5つの活動団体と連携し、イベントなどで協力しながら、あらゆる差別・偏見の解消を目指します。この会は、誰でも自由に出入りできる緩やかなつながりをつくり、当法人がめざす「こころのユニバーサルデザインの社会」を実現する活動を広げていきたいと思っています。

-ありがとうございました。

 


認定NPO法人 魅惑的倶楽部(エキゾチッククラブ)  https://exoticclub.jimdofree.com/

1999年11月11日に任意団体として設立後、2002年にNPO法人、2015年に認定NPO法人となる。(1)障がいのある人、長寿者、マイノリティ等社会福祉全般に関するサポート事業、(2)エイズ予防啓発活動、(3)中間支援事業、(4)青少年の健全育成に関する事業を展開している。

鈴木 恵子(すずき・けいこ)

浜松市の公立中学校で音楽科教諭として勤務。退職後、民生委員などの活動を経て「魅惑的倶楽部(エキゾチッククラブ)」を設立し、理事長に就任。

 

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2023年「第21回魅惑的生人四季」開催時、神取忍実行委員長(左)、鈴木恵子理事長(右)