Fast Track Cities エイズの流行終焉を目指す都市の取り組み

2023 年 5 月 8 日

【報告書追加】Fast Track Cities エイズの流行終焉を目指す都市の取り組み

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Fast Track Cities Workshop Japan 2022 報告書(PDF:8.42MB)


 2022年11月、東京で「Fast Track Cities Workshop Japan 2022」が開催されました。Fast Track Cities(FTC)のワークショップが日本で行われるのは昨年に続き2回目になります。このワークショップでは、最新のHIV/AIDSの状況、現状の課題などについて国内外の医師・研究者から報告があり、さらに当事者やその支援団体からの声を聴くことができます。医療者、当事者、支援者が一堂に会する点がFTCの特徴といえますが、そもそもFTCとはどのようなものでしょうか。

Fast Track Cities(ファストトラックシティズ)とは


 2014年12月1日の世界エイズデー(World AIDS Day)に、フランス・パリに世界中から多くの市長が集まりました。「2030年までにエイズの流行を終わらせるために団結する」という趣旨の宣言が出され、出席していた27の都市の市長が署名しました。これは「パリ宣言」と呼ばれています。

 国連エイズ合同計画(Joint United Nations Programme on HIV/AIDS:UNAIDS)は、都市におけるエイズ対策を加速させる必要性を訴えています。世界の人口の半分以上が都市部に集中しており、HIV感染者の多くも都市部で生活しているからです。都市ではたやすく人と人とがつながることが可能ですが、社会的や経済的な格差が大きいため、すべての人に支援が行き届きにくいという側面があります。これらの特徴や問題を踏まえた対策を講じることで、より多くの人にサービスを提供しやすくなると考えられています。

 そこで立ち上げられたのがFast-Track Cities(FTC)です。FTCの枠組みでは、世界中の都市や地方自治体と、UNAIDS、国際エイズケア提供者協会(International Association of Providers of AIDS Care:IAPAC)などを含むパートナーが連携して活動を展開します。加盟する都市や地方自治体は年を追うごとに増え、大きなプロジェクトに成長しています。
 FTC加盟都市で実施されたHIV政策・戦略などの情報はとりまとめられ、加盟都市と共有されます。ほかの都市の取り組みのベストプラクティクスを共有しやすくなることは、FTC加盟の利点のひとつと考えられます。

エイズの流行終焉のための「95-95-95」


 HIVに感染していても抗HIV療養で血中ウイルス量を低く抑えると、性行為の相手に感染させる可能性はありません。そのため、UNAIDSは2014年に、2020年までに「感染者の90%以上が診断を受け感染を自覚すること」「診断を受けた感染者の90%以上がHIV治療を受けること」「治療中の感染者の90%以上で血中ウイルス量を抑制すること」という3つを世界共通の目標として提唱しました。これらを達成することで2030年までに約2,800万人の新規HIV感染と2,100万人の死亡を防ぐことができると推計されています。この「90-90-90」達成というスローガンは一定の成果を上げたものの、残念ながら目標には達しませんでした。エイズの流行終焉を確実に実現するため、次の目標値は90%から95%へと、より野心的なものに設定しなおされています。

【2025年までの目標】
1.感染者の95%以上が診断を受け感染を自覚すること
2.診断を受けた感染者の95%以上が抗HIV療法を受けること
3.治療中の感染者の95%以上で血中ウイルス量を抑制すること


HIVに対する都市の取り組み

 しかし、目標を掲げただけでは実現は遠く、医療界だけでなくさまざまな分野での取り組みが求められます。2014年のパリ宣言を受け、UNAIDSが出したプレスリリースでは、上記の目標達成の障壁として、HIV感染者に対する差別や偏見があると指摘しています。HIVに感染が判明したことで周囲から差別や偏見を受けるのではないか、と怖れて検査から足が遠のいてしまったら、最初の目標である「感染者の90%以上が診断を受け感染を自覚すること」は達成できません。当事者や医療者だけではなく、社会全体でHIV/AIDSについての正しい知識と関心をもつことが大切です。

 IAPACのホセ・M・ズニガ理事長は、エイズ終焉に向けた目標を達成するには、HIVの予防、検査、治療の格差を解消することが求められると語り、「そのためには世界規模でこの問題を考え、地域で行動し、これまでにも各都市にあったプログラムとリソースを活用しながら地域主導の介入を行っていく必要がある」と述べています。

 2022年10月、スペイン・セビリアで「FAST-TRACK CITIES 2022」が開催され、リモートによる参加も含め、多くの都市から市長や関係者が集まりました。ここでは2014年の「パリ宣言」を補足するものとして「セビリア宣言」が出されました。そこには10項目のコミットメント(約束)が掲げられています。その中には、HIVに関する理不尽な条例や法律の撤廃が含まれます。また、検査から治療へ、そして治療を継続するためのつながりをもったケアを構築するための支援や、各都市のHIVに関するデータを地域主導で収集・分析し、活用する取り組みも盛り込まれました。

 FTCは、HIVの当事者とその人たちを支えるコミュニティを中心にとらえ、そして各都市での取り組みを世界的に広げ、エイズの流行を終結させることを目指しています。


参考
・Fast-Track Cities
https://www.fast-trackcities.org/
・UNAIDS「FAST-TRACK CITIES」
https://www.unaids.org/en/cities
・UNAIDS「FACT SHEET2022」
https://www.unaids.org/en/resources/documents/2022/UNAIDS_FactSheet
・SEVILLA FAST-TRACK CITIES 2022
https://www.iapac.org/conferences/fast-track-cities-2022/