性教育 なぜ必要?

2022 年 2 月 7 日

日本は性教育後進国といわれているのをご存じでしょうか。
国際的な性教育の指針である国連の『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』には、5~8歳で「赤ちゃんがどこから来るのかを説明する」、9~12歳で「どのように妊娠するのか、避けられるのかを説明する。避妊方法を確認する」など、年齢別に性教育の学習目標が示され、幼少期から具体的な性教育を行うことを推奨しています。

「そんなに早くから?」と思う人もいるかもしれません。ここでは、性教育がなぜ必要なのか、性教育を学ぶことでどのように成長するのかを一緒に考えていきたいと思います。


幼少期からの性教育で望まない妊娠を防ぐ


厚生労働省がまとめた「令和元年衛生行政報告例:結果の概要」によると、日本の人工妊娠中絶件数は約15万6430件でした。近年、全年齢において減少傾向にはありますが、そのうちの1万2678件、約8%が20歳未満で、19歳が5,440件、続いて18歳が3,285件となっています。

日本産婦人科医会は、予期せぬ妊娠が起こる背景として次の6つをあげ、性教育の必要性に言及しています。

1. 性行為がある
2. 妊娠の仕組みを知らない
3. 避妊の知識がない
4. 妊娠週数の数え方を知らない
5. 中絶は21週6日までということを知らない
6. 自分の身体についての知識がない
(出典:公益社団法人 日本産婦人科医会

遅れている日本の性教育


日本の性教育は学校指導要領に基づいて行われ、小学校4年生の保健体育で月経や精通について、5年生の理科で生殖機能について学び、中学校では受精・妊娠までを学びますが、妊娠に至る過程や経過については小中学校で取り扱わないことになっています。
つまり、妊娠する行為や避妊の正しい知識を学校で学ぶことができず、先輩や同級生、あるいはインターネットなどを通して得た知識が、本当に正しいのか、本当に十分なのか、わからないままに、性行為を行っているのが実情なのです。

無防備なセックスは妊娠だけではなく性感染症のリスクを高めることにもなります。実際に日本では梅毒が若い世代を中心に増加傾向にあります。

だからこそ、妊娠の仕組みと正しい避妊法を知り、自分の身体の知識、性感染症の知識をきちんと身に付けることによって、望まぬ妊娠や性感染症を防ぐことができるのです。それが国際標準の性教育の実施であり、日本産婦人科医会は、「義務教育が終わる中学校卒業までに教えておかないと間に合わない」と声を上げています。

性被害防止のために「プライベートゾーン」を子どもに教える


幼少期から性教育を行うことは、性被害の防止にもつながります。とくに大切なのは、「プライベートゾーン」の理解です。「プライベートゾーン」とは、水着を着たときに隠れる部分と、普段隠れている口の中のこと。自分だけの大切な身体の一部なので、「他人に見せない・触らせない」「他人のものを見ない・触らない」という基本を、わかりやすく、やさしく、繰り返し教える必要があります。

2020年度に行われた内閣府の「男女間における暴力に関する調査」によると、未成年で性交等の性被害にあった時期は、「小学生入学前」が女性8.8%、男性5.9%、「小学生のとき」が女性11.2%、男性11.8%、「中学生のとき」が女性4.0%、男性11.8%とあり、子どもの性被害の予防対策が喫緊の課題であることに気づかされます。
もしも誰かに「プライベートゾーン」を「見せて」「触らせて」といわれたり、嫌なことをされそうになったら、はっきり「イヤ」といってその場から逃げて、相談してほしいと伝えておくことも、子どもを性被害から守るために大切です。

また、「プライベートゾーンは大切な場所である」という理解は、自分を守るだけでなく、相手を尊重する気持ちを育み、ひいては加害者を生まないことにもつながります。
前述の『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では、15~18歳の学習目標を「生殖、性的機能、性的欲求の違いを区別する」としており、「パートナーとの性的な関係で、双方の合意はいつも必要」と明記しています。

性教育が性行動を慎重にさせ、相手を尊重する気持ちを養う


日本が性教育に後ろ向きの理由は、「寝た子を起こしたくない」という意識のようですが、各種研究からは性教育を行うことで性交年齢が早まる傾向はなく、むしろ、慎重にさせることがわかっています。

予期しない若い世代の妊娠出産は、学校や家庭といった居場所を失うきっかけになるという指摘があります。また、最近は居場所を失った若い女性が、SNSを通じて性被害にあうケースも増え、社会問題になっています。背景は1人ひとり異なりますが、対応していかなくてはなりません。その一つに正しい性の知識を伝える重要性があると思われます。

しかし、学校の科目では、現実に即した情報を教えることができず、家庭においても、親世代がきちんと性教育を受けていないため、親子で性の話をすることに抵抗をもっている人が少なくありません。

そこでいま、産婦人科医や助産師、看護師、NPO法人などが学校に出向き、性教育を提供する取り組みが各地で広がっています。
性や性器はいやらしいものでも汚いものでもなく、「大切なもの」「尊重されるべきもの」という認識は、基本的人権を理解する上でも重要です。性暴力の被害者も加害者も生まないためにも、性教育の充実が求められるのです。
正しい知識と情報こそが性をポジティブなものにし、幸せな人生の基礎をつくります。