Fast-Track Cities Workshop Japan 参加レポート(3)

2021 年 10 月 12 日


ポストコロナ時代のHIV検査機会の拡大

2020年はCOVID19の感染拡大により、自粛、自粛の1年となり、健康診断、がん検診の受検率が下がりました。これはHIV抗体検査においても例外ではありません。
HIV感染症については、その後AIDSを発症させないためにも、ほかの人に感染を広げないためにも、早期発見・早期治療が重要です。ここでは、HIV検査機会の拡大についての取り組みをご紹介します。

日本のMSMにおけるHIV検査の促進のために


HIV感染症やセクシャルヘルスを専門とする金子典代氏(名古屋市立大学大学院 看護学研究科・看護学部准教授)からは、「日本のMSMにおけるHIV検査の促進・阻害要因に基づく検査拡大ストラテジー」と題して講演がありました。

性行為の相手が男性である男性(MSM: Men who have Sex with Men)の性行動等とHIV検査の関連を各地で調査したところ、年齢の高い人ほどHIVの定期検査を受けていないことが判明しました。
「HIVや梅毒などの性感染症への関心を保つためには、HIV対策に取り組む地域のコミュニティに根ざした活動団体(CBO:Community Based Organizations)が情報を発信し続けることが重要と指摘し、従来の検査以外にも民間の医療機関での検査、郵送検査など選択肢を増やす必要性がある」と述べています。

とくにCOVID19の流行下では、保健所の業務に大きな負担が生じ、従来の検査が滞るところもありました。検査の選択肢を増やす必要性があり、その一つとして民間の医療機関を活用した検査の拡大が検討されるとしています。実際に中四国地方では、検査数も伸びているそうで、検査の継続は維持されています。今後、郵送検査での検証を進め、新たな検査方法を取り入れることで検査機会を拡大する必要性を述べています。

また、郵送検査では地方都市でもCBOなど民間団体のアウトリーチにより、リスクがある人たちへ検査を届けられる可能性も示されているとして、検査機会拡大への取り組みに手応えを感じていました。

三密を避けて性感染症の検査を気軽に安全に行う新たな取り組み


2020年の保健所におけるHIV抗体検査件数は68,998件と、ここ12年で最低でした。これはもちろんCOVID19の感染拡大が影響しています。

感染症が専門の今橋真弓氏(NHO名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部 感染症研究室長)は、新たな検査の取り組みとして、「iTesting」を紹介しました。これはスマートフォン等で検査を予約し、取得したIDを検査会場で提示すると、自己採血の検査キットを受け取ることができ、タブレットで検査についてのオリエンテーションを受け、その場で自己採血します。結果は後日Web上で確認でき、陽性の人には確認検査を促す紹介状が発行されます。支援団体などにメール、チャット等で相談ができるのもポイントです。

このプログラムで検査を受けた人に対してアンケートを行ったところ、会場までのアクセスなどに不満の声もありましたが、会場内で実際に行われたオリエンテーションの内容、プライバシーの保護などには「とても満足」と多くの人が回答していました。また、今回のアンケートで、従来の保健所検査が無料であることを知らない人が多くいたことがわかり、周知の徹底がさらに必要であると気づかされたといいます。
「検査数が伸びない背景には保健所の無料匿名検査を知らない人がいる。『iTesting』などのより受検しやすい環境、機会を提供していかなくてはいけない。また、キスでうつると誤解している人も多く、正しいHIVの情報についても発信しなくてはいけない」と今後の活動を語ります。

このHIV検査と早期ARTに関しては、後半のパネルディスカッション「日本におけるHIV検査機会拡大と早期ART」でも討議されました。パネリストは、谷口俊文氏(千葉大学医学部附属病院)、今橋真弓氏、四本美保子氏(東京医科大学病院)、城所敏英氏(東京都新宿東口検査・相談室)、椎野禎一郎氏(国立国際医療研究センター 臨床研究センター)の5名です。

ここでもHIV検査の機会拡大のためには、保健所検査とともに別の検査手段の導入の検討、また、新たな検査として考えられる「郵送検査」で陽性とわかった人をどう速やかに治療につなげるかのしくみの構築が急務であるという意見が多く出ました。