Fast-Track Cities Workshop Japan 参加レポート(2)

2021 年 10 月 12 日


早期ARTへの取り組み

HIV陽性者に対して、早期に抗 HIV 療法(ART:antiretroviral therapy)を行うことは、患者本人の予後を良好にし、他者への感染リスクも低下させます。海外のガイドラインでは、早期ARTを推奨しており、実際に多くの治療が行われています。日本のガイドラインでも、「すべてのHIV感染者にARTの開始は推奨」としているものの、陽性判明後、治療開始までの時間は、早期というにはまだ遠いのが現状です。その点を踏まえて、米国での臨床経験のある千葉大学医学部附属病院 感染制御部・感染症内科講師 谷口俊文氏から「早期ART実現に向けての課題」と題した講演がありました。

HIV感染症も早期発見・早期治療が大切!


感染症専門医の谷口俊文氏(千葉大学医学部附属病院 感染制御部・感染症内科講師)は、まず米サンフランシスコ総合病院での取り組みを紹介しました。その取り組みとは、スクリーニング検査でHIV陽性となった人に、治療薬5日分がセットされた「スターターパック」を渡し、確認検査の結果が出る前に飲んでもらうというものです。確認検査の結果待ちの時間を無駄にせず、すぐに治療を始めれば体内のウイルス量を早く減らせるだけでなく、他人にHIVを感染させるリスクも下げられます。

世界的なガイドラインではCD4陽性リンパ球の数値に関わらず、ARTを開始することを推奨しており、実際にCD4の値が500を下回っていなくても、ARTの結果、AIDSや非AIDS関連疾患の発症を減少し、死亡率を低下させているそうです。診断から1週間以内のARTの開始は、患者通院維持率の増加(ドロップアウトの減少)、ウイルスが抑制されるまでの時間の短縮、ウイルス抑制率の低下、HIV感染者における死亡率の低下が得られるとした研究結果もあるといいます。

谷口氏は「治療開始が早いとHIV感染者本人の臨床経過もよく、不安の軽減、ケアの継続にもつながる」としたうえで、日本では、2020年に推計で25,500人程度がARTで治療を行っており、それは感染者の71%である。一方、診断されているが治療していない人が約5,000人、診断されているが治療していない人が約5,400人おり、この約1万人から新規HIV感染者が生まれていることを指摘しています。

早期ARTを取り入れることに対し、併存疾患や日和見感染症のリスクなど個人によっては懸念事項もありますが、早期に治療を開始するメリットとして、谷口氏は以下の4つを挙げています。

・ARTで治療していない時間の短縮による良好な臨床経過
・ケアの継続率を高める機会の拡大
・治療までの時間が短いと不安が減り、信頼感が増す
・公衆衛生上の利点:感染リスクの低減

 

早期ARTに関しては後半のパネルディスカッション「日本におけるHIV検査機会拡大と早期ART」でも討議されました。パネリストは、谷口俊文氏、今橋真弓氏(NHO仙台医療センター)、四本美保子氏(東京医科大学病院)、城所敏英氏(東京都新宿東口検査・相談室)、椎野禎一郎氏(国立国際医療研究センター臨床研究センター)の5名です。

早期ART導入に関しては、「免疫機能障害認定基準」「障害者手帳」「自立支援医療」の見直しが求められとし、そのためには、社会的な関心事としての議論がどう広がるかも重要な条件となるという意見がありました。