約1万人の調査でわかった 性感染症に関する認知度

2021 年 10 月 6 日

Tokyo Sexual Health インタビュー

国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター(ACC)田沼順子先生


みなさんは、性感染症に関する情報を普段どこから得ているでしょうか。また、性に関する悩みや疑問を誰に相談していますか?
セクシャルヘルスに関する情報発信を行うウェブサイト「Tokyo Sexual Health」では、2020年9月28日~10月11日に、日本最大のコミュニケーションアプリ「LINE」を通じて「性感染症に関する知識の認知度の調査」を行いました。 調査を主導した国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター(ACC)の田沼順子先生に、この調査でわかったことや、そこからみえてきた課題についてうかがいました。

日本で梅毒が増えているのを知っている人は半数以下


-性感染症に関する今回の調査はどのように行ったのでしょうか。

田沼先生 LINEリサーチモニター登録者のうち、年齢が18~49歳の人を対象にアンケートへの協力を募りました。アンケートに協力してくれた9,604人の回答をまとめたものは、「2020年度 エイズ対策政策基本事業『研究成果概要』」(厚生労働省)で報告しました。

-調査でどのようなことがわかりましたか?

田沼先生 回答者のうち、性交経験のある人は81.6%でした。つまり8割以上の人が性交を経験しているわけですが、日本で梅毒が増えていることを知っている人は45.1%と半分以下にとどまっています。 梅毒は、感染症予防法により診断した医師が保健所に届け出る決まりになっています。戦後日本の梅毒の患者数は減少傾向にあり、1990年代前半からは年間届出数が1,000人以下でしたが、2011年頃から増え始め、2017年は7,000人を超えています。そのなかには、病院にかかった時点でかなり進行していた人や、母子感染した乳児もいます。
現在の日本で梅毒が増えているということを知らない人がまだまだ多いということが調査によってわかりました。

性感染症の情報源や、コンドームの使用に対する意識は?


-性感染症に関する正しい知識を得る環境が少ないようですね。

田沼先生 はい。アンケートでも、「性に関する悩みや疑問を誰に相談したらよいか悩んだことがある」という人が42.3%いました。
では性感染症の知識をどこから得ているのか、その情報源を尋ねると、「インターネット」が62.7%でもっとも多く、次が「学校の授業」で34.7%です。年代別にみてみると、18~24歳は「学校の授業」(男性66.0%、女性67.7%)が「インターネット」(男性49.4%、女性52.7%)を上回っていました。このことから、学校の性教育を通して、正しい情報を伝え、性に関する悩みにもオープンにできるようにしていくことの重要性を感じました。

-性感染症の予防に対してはどうでしょう。

田沼先生 コンドームの使用は、避妊のためだけではなく性感染症予防にも大切ですが、今回行ったアンケートで、「性交時に必ずコンドームを使用している」と回答した人は33.6%です。さらに「コンドームを必ず使用すべきである」と回答した人は、男性で7%、女性で10.9%にとどまりました。ただし、年代別では、「コンドームを必ず使用すべきである」と回答したのは男女とも18~24歳がもっとも多く、男性で11.4%、女性で17.2%です。若い人の方が、きちんとコンドームを使おうという意識が高いようです。

一方で、「性交渉の相手が希望しなかったら、コンドームを使用しなくてよいと思う」という人は、男性17.4%、女性2.8%と性別で大きな差がありました。相手が希望しなければコンドームを使用する必要はないという考えが男性に多い傾向は、今回のアンケートの対象年齢のすべてで共通しています。
コンドームは避妊具としても優れており、正しく使用すれば失敗率は2%と低いのですが、同時に性感染症予防もできるという意識をもって、性交時にはぜひ使用していただきたいと思います。

日本にセクシャルヘルスを根付かせるために


-こちらのWebサイト「Tokyo Sexual Health」のミッションと、セクシャルヘルスの重要性について教えてください。

田沼先生 「Tokyo Sexual Health」は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、性感染症増加を防ぐためにつくられたプログラムです。新型コロナウイルス感染症の影響で無観客ということになりましたが、一定期間に世界中から大勢の人が集まるイベントでは様々な感染症がまん延するリスクが高まるため、きちんと対処しておくべきであるということで、始まったプログラムでした。

そこで、過去のオリンピック・パラリンピック競技大会のときはどうだったのかを調べたところ、(1)オリンピック・パラリンピック競技大会で性感染症が増加した事実はない、しかし、(2)オリンピック・パラリンピック競技大会を機に、たとえばHIV感染予防キャンペーンのような性感染症対策や性の健康に関連した取り組みが活発に行われたという2つのことがわかりました。

HIV感染対策としては、国連が「国連合同エイズ計画(UNAIDS)」を1996年に発足させ、国際オリンピック委員会(IOC)とも連携しています。オリンピック憲章が掲げる「ダイバーシティ&インクルージョン」(多様性を受け入れ、活かすという意味)は、あらゆる差別や格差とたたかい、LGBTQなどの性的少数者、HIV陽性者などとともに生きる社会の実現というところでUNAIDSの理念と合致するため、一緒に活動しているのです。オリンピック・パラリンピックの選手村にコンドームを配布するのは、単に選手村内での避妊や性感染予防という目的ではなく、世界全体でHIV感染症の予防やHIV陽性者に対する差別や偏見に立ち向かう意識を高めるというメッセージが込められているのです。

また、過去のオリンピック・パラリンピック競技大会では、性感染症が増えることはなかったけれども、一時的に性に関する悩み相談が増えたというデータがありました。相談の中には性暴力に関する被害も含まれます。

これらを踏まえ、「Tokyo Sexual Health」に与えられたのが、セクシャルヘルスを日本に根付かせ、性について知りたいと思ったとき、悩んだとき、困ったときにいつでも相談できる仕組みのあり方を利用者目線で追求するというミッションです。
性暴力に遭った人が、病院の救急外来でケガの治療だけでなく、緊急避妊薬(アフターピル)やHIV感染症の予防薬の投与、精神的なケア、警察などとのやり取りのサポートなどをトータルで受けられる仕組みづくりや、セクシャルヘルスに関するさまざまな情報を提供するポータルサイトの構築にも取り組んでいきたいと思っています。


【性感染症に関する知識の認知度の調査】
調査期間:2020年9月28日~10月11日
調査方法:コミュニケーションアプリ「LINE」を使って調査
調査対象:LINEリサーチモニター登録者482万人のうちの18~49歳の男女
回答数:9604人