オリンピック憲章に掲げられた人権・平等

2021 年 10 月 6 日

4年に一度のスポーツの祭典、オリンピック・パラリンピック。

2020年に開催される予定だった東京大会は、想像もしなかった新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって延期となりました。
その後も新型コロナウイルスの猛威は続き、オリンピックの開催の是非について問われ続けました。この間、オリンピック憲章が掲げる理念についても、話題に上ることが多く、ここでは、オリンピック憲章に成文化された人権と平等について考えてみたいと思います。
オリンピック憲章〔2020年7月17日から有効〕国際オリンピック委員会

オリンピック憲章にあるオリンピズムの根本原則は、近代オリンピックの父、クーベルタン男爵が提唱した「スポーツを通して心身を向上させ、さらには文化・国籍など様々な差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」に由来します。
オリンピズムの根本原則のうち、人権や差別について触れている箇所を抜き出してみました。

4. スポーツをすることは人権の1つである。すべての個人はいかなる種類の差別も受けることはなく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。オリンピック精神においては友情、連帯、フェアプレーの精神とともに相互理解が、求められる。

 

4項では、スポーツをすることそのものが「人権」であるとまず明言しています。人権とは、この世に生を受けたすべての人に生来備わっているもので、誰もが自由かつ平等であり、私たちが幸せに生きるためものです。ここにいかなる差別も不平等もあってはなりません。スポーツへの参加を望む人には、平等にその機会を与えられなくてはならないのです。そして、自分とは異なる人たちを理解する(相互理解)ことを求めています。

6. このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国、あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。

 

6項では、禁止すべき差別として、「人種」「肌の色」「性別」などを挙げています。非常に細やかな部分にまで目が行き届いています。
禁止すべき差別について、現在のようなかたちになったのは、2017年から。それまでは、「性的指向」や「政治的またはその他の意見」「社会的な出身」などは特記されておらず、「その他」に含まれていました。
以前から、性別による差別とともに性的指向に関する差別もあったはずです。しかし、それを差別だと言上げすることも少なく、あったとしてもその声は広くは伝わらなかったのでしょう。ひたすら我慢を強いられてきたという想像に難くありません。

しかし、現在では、性的指向も社会的な出身なども差別してはいけないとはっきりと示されています。何年か後には新たな差別禁止事項が加わり、さらなるアップデートがされるかもしれません。
本来は、「いかなる差別も禁止する」のひと言で、すべての人が同じ認識をもつことができればよいのですが、私たち人類の意識や思考は案外アップデートが難しいもののようで、いまだに前時代的なジェンダー意識がまかり通っていることは否定できません。

東京2020大会では「多様性と調和」をビジョンに掲げています。自分とは違う面をもつ人の「違う面」を認め、受け入れることが「多様性と調和」です。このビジョンが実現したら、今よりも世界はやさしく親密になるのではないでしょうか。

 

オリンピック・パラリンピックでは、競技ごとにエントリーした各国の代表選手がしのぎを削りますが、競技とはいえ勝ち負けのみに一喜一憂しているのではありません。選手は個人の目標、自分自身とも闘っており、昨日の自分よりも今日の自分、そして、明日の自分の成長を目指して鍛錬を積んでいるのです。結果だけではなく、どのように取り組んだのかが評価されるからこそ、「スポーツをすることは人権の1つ」となるのでしょう。