What is Sexual Health? セクシャルヘルスとは

公開日:2022年7月14日

「私のからだは私のもの」が当たり前になるまで
「世界人口白書2021」から考える性と生殖

「世界人口白書2021」が伝えてくるもの

2022年、世界の人口は約79億5400万人。2021年より8000万人ほど増加していることになります。2015年以降、毎年平均して0.2%ずつ人口が減少している日本では、世界の人口が増加していることに実感をもちにくいのですが、インドを中心に人口は確実に増加傾向にあります。

世界全体では男女の人口比率はほぼ同じですが、国によっては男女比に偏りがあります。先進国では、男性よりも女性のほうが多く、一方アジアやアフリカなどの開発途上国では男性のほうが多い傾向がみられます。
その背景に何があるのか、国連人口基金(UNFPA:United Nations Population Fund)がまとめた「世界人口白書 2021」をもとに考えていきたいと思います。
「世界人口白書2021」では、国連の報告書として初めて「からだの自己決定権」に焦点を当てています。本来、からだの自己決定権は自分自身にあり、他人に決められたり脅かされたりするものではありません。しかし、「私のからだは私のもの」と声に出せない人がいるのが現実なのです。

女性のからだは誰のもの?

「世界人口白書2021」で報告された主な調査結果は以下になります。

・ヘルスケア、避妊、性交渉に対して完全な自己決定権をもっている女性は、全体の約55%
・マタニティケア(妊娠・出産・中絶)へのアクセスを保証している国は、全体の約71%
・避妊への完全かつ平等なアクセスを保証している国は、全体の約75%
・性に関する健康とウェルビーイングを支援する法律を制定している国は、全体の約80%
・包括的な性教育を支援する法律と政策がある国は、全体の約56%



UNFPAでは57の開発途上国において約半数の女性が、パートナーとの性交渉、避妊薬・避妊具の利用、ヘルスケアの3つの分野における決定権を真に享受できていないと訴えています。その結果、多産、身体が未成熟な年齢での妊娠・出産、安全性が希薄な中絶など、女性の生命を危険にさらす環境がいまだ残ってしまっています。

UNFPA事務局長のナタリア・カネム氏は、この調査結果を受けて「今もなお半数近くの女性が、性交渉、避妊、ヘルスケアを受けることについて自らの意思で決められないという事実に、私たちは憤りを覚えています」と語っています。
さらに、調査で得られた次の事実が続きます。

・20の国や地域で、レイプの加害者がその被害者と結婚した場合、刑事訴追を免れることができるという法律がある
・43の国では、配偶者間におけるレイプの問題を扱う法律がない
・30を超える国々で、女性が家の外で活動する権利が制限されている
・障害をもつ少女や少年は、性暴力の標的になる可能性が約3倍高く、なかでも少女は最も大きなリスクにさらされている



2021年6月にUNFPAの東・南部アフリカ地域事務所(ESARO:East and Southern Africa Regional Office)がまとめた『PIECING IT TOGETHER:国会議員・国民・国家政策』には、2019年に開催されたナイロビ・サミットで表明された公約の推進に向けて、報告時点での進捗状況が紹介されています。

ケニア、マラウイ、ウガンダ、ザンビアの4か国が立案した政策行動は以下になります。
大きな目標として、「家族計画(FP)の満たされていないニーズをゼロにする」「予防可能な妊産婦の死亡をゼロにする」「ジェンダーに基づく暴力及び有害な慣行をゼロにする」「HIV新規感染をゼロにする」という“4つのゼロ”が掲げられています。新型コロナウイルス感染症の影響でなかなか実際の行動が起こしにくい状況ではありますが、目指すものは見えています。

このような取り組みの必要性が認知されてきた一方で、いまだ多くのアフリカの女性たちは、自らが避妊を選択し、自らが望むタイミングで出産することが難しい状況に置かれています。2020年の推定で女性器切除を行われた人が400万人おり、1200万人が児童婚をしているといわれています。減少傾向にはありますが、悪しき慣習として根強く存在しています。

先ほど発表された「世界人口白書2022」では、2021年に引き続きリプロダクティブヘルスに注視し、「見過ごされてきた危機『意図しない妊娠』」をテーマに掲げています。同白書の報告を受け、カネム氏は、世界の妊娠の半数近くが意図しない妊娠であり、自分の人生を左右する妊娠・出産の選択を自らできない女性がまだまだたくさんいることを声明文で触れています。さらに、妊娠・出産の機会を自ら選び取ることができないという問題はそこだけでとどまるものではないことを指摘しています。

紛争の恐怖、COVID-19、気候変動、大規模な移住、人種的な不平等など、ほかにも新聞の見出しとなるような課題は多くあります。こうした課題はどれも独立して起きているのではなく、意図しない妊娠も同様です。私たちの世界は相互につながっており、望まない出産をするという個人的な出来事も大災害の一部であり、相互に関係しています。
COVID-19の世界的流行によるロックダウンでは、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・サービスや避妊具・薬へのアクセスが妨げられ、意図しない妊娠の増加につながったとき、私たちはこの問題を目の当たりにしました。また、人道危機下において、女性や少女が性的暴力のリスクの増加に直面していることも目の当たりにしています。そして女性や少女のからだが自分自身のものであるとみなされていないことも、社会全体に影響を及ぼしています。意図しない妊娠は、影響を受ける女性にとっては個人的な問題だけではなく、家族、社会にとっては健康の問題、そして国や国際社会にとっては人権の問題なのです。



ここでカネム氏は「望まない出産をするという個人的な出来事も大災害の一部であり、相互に関係しています」と述べています。「望まない出産」と「大災害」ではあまりにもスケールが違うように感じる人もいるかと思いますが、相手の人生を考慮しないことで生じた妊娠も自分たちの利益を追求した結果の森林破壊(地球温暖化の原因にも考えられている)も、自然を含めた他者、自分以外の者たちが有する人権や生命の軽視、理解不足が根底にあるのではないでしょうか。
ロシアのウクライナへの侵攻を機に、亡くなられた人、性暴力の被害を受けた人たちの悲しみが伝えられています。カネム氏の言葉を受けて考えれば、これもすべて同じ問題のループの中にあるのです。

2019年11月12~14日に、ケニアの首都ナイロビで開催された国際人口開発会議(ICPD+25)。100カ国以上の大臣や政府関係者、13の国際機関と200以上のNGOが参加し、「性と生殖に関する健康と権利」をテーマに討議された。



参考
・世界人口白書2021(著.UNFPA/日本語版)
https://tokyo.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/swop2021_0702_printable_0.pdf
・世界人口白書2022(著.UNFPA)
https://tokyo.unfpa.org/ja/SWOP2022