What is Sexual Health? セクシャルヘルスとは

公開日:2022年6月28日

日本ではまだ使えないけれど
知っておきたい「経口妊娠中絶薬」

日本の妊娠中絶の現状と経口妊娠中絶薬

日本では妊娠中絶をする場合、外科的人工妊娠中絶が行われます。手術には真空吸引法と掻爬(そうは)法の2通りの方法があります。

人工妊娠中絶手術を受けられるのは妊娠22週未満(21週6日)までで、妊娠初期の12週未満(11週6日まで)の場合は、子宮内の内容物を器具で掻き出す子宮内容除去術(掻爬術)、もしくは吸引法が行われます。麻酔は、血管に麻酔薬を注入する静脈麻酔で行う場合がほとんどです。手術は10~15分程度で終わり、体調に問題がなければ医師の判断で入院をしないこともあります。
掻爬法に比べ、吸引法のほうが女性のからだへの負担も少なく、安全性も高いのですが、日本ではまだ数多くの医療機関で掻爬法が実施されています。

妊娠12週を過ぎ、22週未満の場合は、子宮口を開く処置を行ったあと、子宮収縮剤を点滴で投与して人工的に陣痛を起こし流産させます。からだに負担がかかるため数日間の入院が必要となります。また、市区町村役場に死産届けを提出し、胎児の埋葬許可証をもらう必要があります。 身体的な負担に加え、精神的、経済的、社会的な負担も重くなってしまうといえるでしょう。

妊娠の週数は、最後の月経が始まった日を起点に数えます。最後の月経の1日目が「妊娠0週0日」です。妊娠40週0日(280日目)が出産予定日になります。

「経口妊娠中絶薬」とは

一方、海外では多く使用されている経口妊娠中絶薬は、最後の月経が始まった日から49日(妊娠7週)以内に使用するという制約がありますが、身体的な負担を大きく減らせることができます。経口妊娠中絶薬は、妊娠がわかった場合に、最後の月経が始まった日から49日(妊娠7週)以内に正しく飲むことによって、妊娠を終了することができます。
日本では2021年12月に厚生労働省へ販売承認の申請がされましたが、現在は許可がおりていないため使用できません(2022年5月)。

WHO(世界保健機関)がまとめ、2013年に日本語訳された「安全な中絶 医療保健システムのための技術及び政策の手引き 第2版」1)では、「頸管拡張及び子宮内膜掻爬術(D&C)は、時代遅れの外科的中絶方法であり、真空吸引法及び/または薬剤による中絶方法に切り替えるべきです」とあります。また、経口妊娠中絶薬はWHO 必須医薬品リストにも掲載されています。なおかつ、WHOでは誰もがアクセスしやすい価格とすることを求める提言もしています。実際に海外では80以上の国と地域で使われており(2021年10月現在)、薬剤による妊娠中絶が増えてきています。

なぜ、薬を飲むことで妊娠中絶ができるの?

妊娠は、卵子と精子が結びついた受精卵が子宮内膜に着床することでスタートします。そして、受精から約35時間後には細胞分裂が始まり、受精後4~8週(妊娠6~10週)で皮膚や筋肉、骨、内臓などほとんどの器官や組織の土台ができていきます。順調に妊娠を維持するためにはたらくのが、プロゲステロン(黄体ホルモン)という女性ホルモン。受精や着床をしやすくしたり、子宮内膜やそのまわりの血流量を増やして赤ちゃんが育ちやすい環境を整えたりします。

経口妊娠中絶薬は、このプロゲステロンのはたらきを止め、すでに着床した受精卵をからだの外へ排出します。
経口妊娠中絶薬による中絶を行う場合は、2種類の薬を組み合わせます。まず、プロゲステロンのはたらきを止める「ミフェプリストン」という薬を1錠飲み、2日後に子宮を収縮させる「ミソプロストール」を4錠飲みます。すると、おおよそ24時間以内に出血が起こって排出され、中絶が完了します。

日本国内でも経口妊娠中絶薬の治験2)が行われています。中絶を希望する妊娠9週までの18~45歳の女性120人を対象にミフェプリストンとミソプロストールを服用してもらったところ、93.3%(112人)が24時間以内に中絶が完了しました。残る6.7%(8人)は、時間内に排出されなかったり、一部が体内に残ったりして手術が必要になったということです。

副作用は?

経口妊娠中絶薬の副作用は、腹痛、吐き気・嘔吐、下痢、頭痛、めまい、背中や腰の痛みなどですが、なかには発熱や出血による貧血が起こる人もいます。出血が多く、なかなか止まらない場合には、出血を止める手術が必要となることもあります。
また、経口妊娠中絶薬を使ってはいけない人として、海外の製薬会社の説明書には次のように書かれています。

・卵管妊娠(子宮外妊娠)
・子宮内避妊具(IUD)を使っている人
・副腎に障害のある人
・ステロイド薬物治療を受けている人
・異常出血のある人、抗凝固薬を使っている人
・ミフェプリストン、ミソプロストールあるいは同様の薬に対してアレルギーをもっている人

日本で使えるようになるのはいつ頃?

製薬会社が販売承認を申請した薬について審査し、許可・不許可の判断をするのは、厚生労働省の医薬品医療機器総合機構(PMDA)というところです。早ければ申請から1年以内に承認される可能性があります。2021年12月に申請されているので、早ければ2022年中には日本でも使えるようになります。

日本で使えるようになったときの入手方法は? 費用は?

経口妊娠中絶薬は、最後の月経が始まった日から49日(妊娠7週)までが適用の条件です。また、先述のように使ってはいけない人もいます。服用後に出血が治まらないなど処置が必要な副作用が現れたり、中絶がうまく完了しないこともあるため、医師の処方が必要になります。

費用については現在検討されているところです。経口妊娠中絶薬を飲んだあと、緊急の処置が求められることを想定し、人工妊娠中絶手術と同じくらいの金額が必要ではないかという意見もあります。
とはいえ、それでは海外との価格差があまりにも大きいことなどから複数の市民団体が、安価な経口妊娠中絶薬の承認と国際的推奨に基づく運用などを求めて署名活動を行い、2021年12月に4万人以上の署名を集めて厚生労働省に提出しました。
WHOでは、経口妊娠中絶薬を安全で効果的な「必須医薬品」に指定していることから、日本でも必要な人が必要とするタイミングで入手できるようにすることが求められます。

日本でも経口妊娠中絶薬が承認されれば、からだへの侵襲の低い中絶が可能になります。ただし、精神的な痛みまでもが軽減するというわけではないでしょう。しっかりと避妊の知識をもち、パートナーと避妊について対等に話し合えるようになることが同時に求められることなのではないでしょうか。

1)「安全な中絶 医療保健システムのための技術及び政策の手引き 第2版」WHO(世界保健機)リプロダクティブ・ヘルス部門
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/70914/9789241548434_jpn.pdf?sequence=10

2)LPI001とLPI002の初期人工妊娠中絶における有効性及び安全性を検討する多施設共同非盲検第3相試験
https://www.clinicaltrials.jp/cti-user/trial/ShowDirect.jsp?clinicalTrialId=32873