LGBTの居場所をつくり、自分らしく生きられる社会に

2023 年 10 月 23 日

Tokyo Sexual Health インタビュー

にじいろほっかいどう 理事長 国見 亮祐さん

北海道に暮らすLGBT当事者への差別や偏見、社会的な孤立をなくすことを目的に活動する、一般社団法人にじいろほっかいどう。札幌、函館、帯広、苫小牧で当事者の交流イベントを開催するほか、研究機関とシンポジウムを共催したり、全国のコミュニティセンター・関連団体と連携したりしてHIV/AIDSに関する啓発活動などを幅広く行っています。焼きピロシキをゲイの人たちと作って食べて語り合うユニークなイベントなど継続して行っています。理事長の国見亮祐さんに、活動の歴史、北海道の当事者事情、今後の展望などについてお話をうかがいました。

仲間ができると自分を肯定できる


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-北海道でLGBTの居場所づくりに取り組むようになったきっかけを教えてください。

国見さん いま私は48歳ですが、10代後半の頃にはとても孤独を抱えていました。大学に入学して、ゲイサークルに参加して、初めてゲイの仲間ができたとき、「こんなにたくさん仲間がいるんだ」「自分はゲイでいいんだ」と思うことができたんですね。その経験から「居場所」というものを考えるようになりました。
 当時住んでいたのは道外で、出身も北海道ではありません。東京で行われたレインボーパレードで札幌在住の人と知り合ってたいへん意気投合しまして、札幌に引っ越してきてしまいました。父が北海道出身という多少の縁はあるものの、自分がゲイでなかったらその人との出会いはなかったし、北海道に住むことも現在のような活動をすることもなかったと思います。最初の活動としては、2013年に「GPS」というゲイの人の交流イベントを札幌で開催しました。

-どなたかと一緒に始めたのですか?

国見さん 一人で始めましたが、SNSなどで参加者を募ると、たくさん人が集まってくれました。そこで手応えを感じ、2014年にはLGBTの当事者なら誰でも参加できる交流イベント「さっぽろじぶんカフェ」をスタートさせました。翌2015年12月には、「GPS」と「さっぽろじぶんカフェ」、2014年から活動していたレズビアンの人たちの交流イベント「WING」を統合して、「にじいろほっかいどう」を設立しました。

-多様なイベントや講演会を道内各地で開催していますね。

国見さん 継続的なイベントとしては、10代から23歳までのLGBT当事者のための「にじーず札幌」、年齢に制限のない当事者交流イベントの「set free sapporo」、誰でも参加できる「ゲイの人と焼きピロシキを作って食べる会(ゲイピロ)」などがあります。市民向けの講演会、当事者によるLGBTの基礎知識や経験談、学校や職場でのLGBTへの対応などをテーマとした講演の講師派遣も行っています※1。イベントや講演会の開催地は札幌、函館、釧路、帯広、苫小牧などですね。

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にじーず札幌のイベント

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交流イベント

いろんな人のアイデアを活かして多様なイベントを開催


-「ゲイピロ」はユニークなイベントですね。詳しく教えてください。

国見さん みんなから「な、なんだ! このイベントは」といわれます(笑)。きっかけは函館のピロシキ屋さんと一緒に何かやりたいねと話したとき、彼が「そういえば、この間学童保育の子どもたちを対象に焼きピロシキ作りの体験イベントをやったらすごく楽しそうだったよ」と。ちなみに、日本ではピロシキというと揚げたものが知られていますが、ウクライナなどではオーブンで焼くのが一般的なのだそうです。そこから、ゲイの人と一緒に本場の焼きピロシキを作って食べて、LGBTの話もするというアイデアが生まれました。
 2018年3月に函館で開催したところ十数人の参加がありました。生地を伸ばして具を包み、発酵を待って焼くという作業を一緒に行い、焼き上がるまでの約40分間にLGBT当事者が話をしたり、出来立てほかほかのピロシキを食べながらそれぞれが自由にいろんな人と語り合ったり――。当事者以外の参加者は、ゲイの人と話してみたい、LGBTについてもっと知りたいという人以外に、“焼きピロシキ”そのものに惹かれて来る人もいます。もともとLGBTに特別の興味がなかった人が、気がついたらゲイの人と普通に話しているという感じです。参加者は家族連れやご夫婦、大学生から年配の人まで幅広いですね。告知はホームページやSNSが中心ですが、札幌では図書館などにビラを置いてもらえたことで、より幅広い層の人たちの参加につながったようです。
 函館ではもう10回くらい開催しましたが、リピーターも多く、25人程度の定員がすぐに埋まってしまう人気イベントになっています。2023年度は、一般社団法人LGBT法連合会SOGI※2差別根絶ファンド助成事業に採択され、「ゲイピロサーキット」と題して函館のほかに札幌、帯広、苫小牧そして青森でも行いました。

-イベントなどのスタッフはどのように集めているのでしょう。

国見さん イベントの常連さんに声をかけて、協力をお願いしています。私たちがやっている活動では、発する“熱量”のようなものが大切で、それに応じて協力者が集まります。例えば、「お花見をやろう」「バーベキューをやろう」という話が出たら、役員などに限らずふさわしい人にイベントの運営を任せます。協力してくれる人たちも仕事などの関係で入れ替わりはありますが、勝手連的に人が集まって多様な活動をしています。そこが「にじいろほっかいどう」の特徴です。さまざまな経緯で立ち上がったプロジェクトがいくつも連なっているイメージですね。

全国のコミュニティセンターと連携して


-HIV/AIDS予防啓発活動について教えてください。

国見さん HIV/AIDS予防啓発活動を始めたのは比較的最近です。2018年に開催された「台湾LGBTプライド(台灣同士遊行)」へ行ったとき、「ぷれいす東京」代表の生島嗣さんが「北海道でやってみないか」と声をかけてくれました。北海道では「NPO法人 レッドリボンさっぽろ(RRS)」がHIV/AIDS予防啓発活動を長く行っていますが、同性愛者等向けコミュニティセンター(厚生労働省委託事業)はありません。そこで、MSMを対象にしたHIV/AIDS予防啓発活動に取り組んでほしいというお話でした。以前から親交のあったRRSと共に事業を受託することにしました。MSMに向けた情報発信や啓発、調査などを私は担当しています。
 2019~2022年に行われたMSM向けHIV郵送検査の研究事業(HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究)では、道内全域で希望者に検査キットを提供することができて本当によかったと思っています。厚生労働省研究班の取り組みに加わったことで日本全体の状況がわかるようになり、各地の仲間とのつながりもできました。

-活動で心がけていることはありますか?

国見さん 東京や大阪といった大都市でやっていることを北海道でそのままやるのではなく、エッセンスを取り入れながらできたらいいなと思っています。北海道は広大で、札幌など都市へのアクセスが容易でない地域もたくさんあります。また、札幌と函館などの都市間でも違いがあります。大都市の活動だけではなく、仙台の「やろっこ」や松山の「カラフルドットライフ」など、地方でがんばっている活動も参考になります。

-北海道でPrEPは広がっていますか?

国見さん PrEPの知識はかなり広がったと思います。ただ、北海道では札幌の婦人科クリニックが最近処方を始めましたが、その1カ所のみです。服用している人は東京の専門クリニックの遠隔診療を受けていたりと、実際に処方を受けるにはまだ高いハードルがあります。

法の下の平等を実現し、LGBTの子の未来を明るく

 

-国見さんは「結婚の自由をすべての人に」北海道訴訟の当事者です。いまのお気持ちを聞かせてください。

国見さん 札幌地方裁判所は、私たち原告の請求を棄却したものの、婚姻の平等を定めた憲法14条に違反するという判断をしました(判決日:2021年3月17日)。このときは本当にみんな感動して、同性婚が認められるのではと期待したんですが、控訴審がなかなか進まなくて……。控訴してからもう2年以上たっています。
 同性婚に関する各種世論調査をみると、6~7割が「賛成」で若い世代ほど多いです。世界では35の国と地域で同性婚が可能となっていて(2023年9月現在)※3、主要7カ国(G7)で同性婚を認めていないのは日本だけ。国の動きの遅さには正直いうと失望しています。

-実現を応援している人もいると思います。

国見さん 「同性婚に賛成」という人が6~7割いるのですから、私たちに味方がいないわけではないんです。すごく勇気づけられますし、その事実をバックに前進していきたいと思います。LGBTの人が自分のセクシャリティ、アイデンティティを否定せずに生きられる社会、LGBTに限らず個人の選択が尊重される社会をつくらなければなりません。国の動きは遅いですが、そのために私たちができることをやるしかないという気持ちでいます。
 最近は、行政や学校から「LGBTについて話してほしい」と、講演の依頼が増えています。どんな学校にもLGBTの子はいます。LGBTの存在に批判的な人が活動を妨害しようとしていますが、そのような「バックラッシュ」に負けるわけにはいきません。「これは取り組むべき課題だから」と認識し、「正しいことを学童・生徒に伝えたい」「自分たちも知りたい」と思ってくれている行政や学校の存在は本当に心強いです。

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国見さんの講演風景

-今後の展望をお願いします。

国見さん 明らかにLGBTに対して社会の認識は変わってきています。カミングアウトできる環境も少しずつできていて、自分がLGBTであることを学校の友だちも先生もみんな知っているという子もいます。また、カミングアウトしていなくても、SNSなどを通じて仲間とつながることができます。しかし、婚姻の平等が認められないなど、国の否定的な態度に傷ついて自己肯定感が低くなってしまっている子が少なからずいるのです。私たち大人が、「安心して人生を送ることができる社会をつくるから大丈夫」といってあげて、本当にそれを実現しなければいけないと思っています。
 にじいろほっかいどうは、2023年4月に事務局を帯広市から函館市に移し、9月に一般社団法人になりました。今年度は帯広市のLGBTユースの居場所事業を受託していますが、今後は行政などとの連携事業が増えていきそうです。北海道に住むLGBTの人々に、広く情報や居場所を提供していければと思っています。

-ありがとうございました。


一般社団法人にじいろほっかいどう https://nijiirohokkaido.jimdofree.com/

2015年12月設立。LGBT当事者向けの交流イベントや講演会主催、講師派遣などの活動を札幌、函館、釧路、帯広などで展開。全国のコミュニティセンター、関連団体と「MSM ALL JAPAN」の枠組みで連携し、HIV/AIDSに関する情報発信、啓発活動を行う。役員は理事長、副理事長、監事各1名の計3名。

国見 亮祐(くにみ りょうすけ)

一般社団法人にじいろほっかいどう理事長。公立学校教諭

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※1 「北海道LGBTネットワーク」の4団体と連携
※2 SOGI:Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字で、日本語では性的指向、性自認を意味する
※3 NPO法人 EMA日本 http://emajapan.org/promssm/world/