セクシュアル・マイノリティが安心していられる情報発信拠点

2023 年 9 月 7 日

Tokyo Sexual Health インタビュー

福岡コミュニティセンターHACO 代表 舩石 翔馬さん

福岡市博多区住吉で15年以上活動を続ける福岡コミュニティセンターHACO(以下、HACO)。ホームページには、当事者目線の「九州各県・山口県のHIV、性感染症検査情報」など必要な情報が充実しています。また、HIV/AIDS、性感染症の予防啓発に関する小冊子を医療機関と協力して制作したり、ゲイタウン情報が掲載されたフリーペーパーを発行したりと、積極的に情報を発信しています。2018年から代表を務める舩石翔馬さんに、HACOとの出合いから現在の活動、これから取り組んでいきたいことなどをうかがいました。

HACOの運営は常勤スタッフ2人とボランティアで


-舩石さんとHACOとのかかわりについて教えてください。

舩石さん 僕は大学を卒業するまで自分のセクシュアリティをカミングアウトしていませんでしたが、より自分らしくいられる場所を見つけたいと思い、「福岡」「LGBT」などのワードでインターネット検索をして、ヒットしたのがLGBTQ+の当事者が運営している「HACO」でした。訪ねてみると、いろいろ話ができて、すごく居心地よく感じたんですね。それで通うようになりました。

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-HACOでの活動に参加するようになったきっかけを教えてください。

舩石さん HACOの活動を実際に見て、すごく興味をもちました。周辺のゲイバーなどへコンドームやHIV/AIDSの予防啓発冊子を配布するアウトリーチ活動、性感染症の講演会など、さまざまな場面でボランティアが積極的に活動しているのを見て、自分もやりたいと思ったんです。当時、20歳以下のゲイ・バイセクシュアル男性のための交流会『うぇるはこ』というものがあって、そこでボランティアスタッフとなり、自然な流れで2016年に常勤スタッフになり、その後、2018年に代表の立場を引き継ぎました。

-常勤スタッフは舩石さん含めて何名いらっしゃるのですか?

舩石さん はい。僕と灰来人(はい・らいと)の2人が常勤スタッフで、開館時間にはほぼいます。といっても、HACOの収入だけで生活するのは難しいので、2人とも安定した収入を得られる仕事をもっています。 ボランティアスタッフは学生や会社員5人で、イベントなどで人手が必要なときは、来館者に声をかけ、お手伝いしてもらうこともあります。

情報は受け取る人、必要としている人の目線で発信


-HACOの活動について教えてください。

舩石さん 活動の柱は、「HIV/AIDSや性感染症の予防啓発」と「セクシュアル・マイノリティの居場所づくり」です。HACOはHIV/AIDSや性感染症予防の情報センターという位置付けですが、その目的を達成するためにも、みんなが集う”居場所”が必要だと考え、この2つを柱にしました。僕自身、居場所を求めてHACOとかかわるようになったので、安心して心地よく過ごせる場所にしたいという気持ちは強いです。HACOに来ることでHIV/AIDSや性感染症の情報に触れ、予防が大切なんだなと気づいてもらえたらうれしいですね。
 イベントはHACOのスペースで行うことがほとんどですが、夏には近くの住吉公園で花火を楽しむ「HACO花火」も開催します。また、8月5日を「HACOの日」としてイベントで盛り上げています。
 現在、定期的に開催しているものは、LGBTQ+やジェンダーのことなどを気兼ねなく話せる「福岡にじいろセーフスペース」です。福岡県内のLGBTQ+の活動をしている関連団体と共同で開催しています。ここでは専門相談員による相談も予約制で行っています。
 HIV/AIDSや性感染症のリスクはセクシュアリティに関係なく誰にでもあるので、ゲイ・バイ男性だけではなく、幅広く多くの人に情報を提供して啓発につなげたいと思っています。

-情報提供のツールであるホームページの内容がとても充実しています。「九州各県・山口県のHIV、性感染症検査情報」は詳細ですね。

舩石さん 「HIV、性感染症検査情報」は、ボランティアスタッフとのミーティングから生まれた企画です。コロナ禍で保健所の無料・匿名検査が一時休止になったときは、正確な情報をいち早くわかりやすく届けなければと思い、対応しました。まず福岡県内の全保健所に電話をかけ、実施状況を確認してホームページに掲載しました。それから九州全体、山口県へと範囲を広げていったんです。直接電話で確認していく作業は大変でしたが、HACOのホームページに検査情報をまとめることで利便性は高まったと思います。検査情報はツイッター(注)でも提供しています。
 現在は行政もHACOのこうした情報発信を知っていて、告知協力の依頼もあります。行政とはこれからも密に連携していきたいと思います。

-ホームページのコンテンツはどれもわかりやすい工夫がされていますね。

舩石さん ありがとうございます。「ケンちゃんとリボン先生のHIV/AIDS基礎講座」の制作は主に灰来人が担当し、医学的な監修は九州医療センターの先生にお願いしています。このコンテンツは、コロナ禍の緊急事態宣言中に、ツイッターで更新していたコンテンツで、2021年には小冊子『HIV/AIDSミニ講座』として発行しました。もう1つの小冊子『ヒゲに白髭が目立ってきたら』は、ゲイライフを生涯にわたって健康に過ごすための身体、生活、性生活などの情報をまとめています。ゲイ男性に必要な情報は、HIV/AIDSや性感染症に関することだけではありません。『ヒゲに~』は九州医療センターからの提案で、医師、看護師、心理療法士、ソーシャルワーカーなど多職種の医療専門職が監修に加わって、生活習慣病やがんのこと、介護のこと、お金のこと、そしてパートナーシップ制度のことなどを幅広く取り上げました。

-HIV/AIDSの基礎知識など少しとっつきにくいような情報は、マスコット・キャラクターのケンちゃんにリボン先生がレクチャーするかたちになっていますね。

舩石さん ケンちゃんとリボン先生は、HACOでは僕よりも先輩で、ケンちゃんは世界エイズデーに行う休日特例検査で行政と協働したときに生まれたキャラクターで、HACOの来館者だったデザイナーさんがボランティアで考案してくれたそうです。
 HACOが発行するフリーペーパー『NEW SEASON』でもケンちゃんとリボン先生は活躍しています。『NEW SEASON』はタイムリーな話題、HIV検査が受けられる福岡県内の保健所の情報、そして最新の福岡ゲイタウンマップという構成になっています。ゲイタウンマップが載っていると手に取ってもらいやすいですし、アウトリーチでゲイバーなどに行ったときに店のママやお客さんと話すきっかけにもなります。コミュニティとHACOをつないでくれるものなので、大事に続けていこうと思います。

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-HACOの活動でとくにやりがいを感じるのはどんなときですか?

舩石さん 先日「コンドーム展」を開催しているときに来た10代の人たちが、壁に展示してあるさまざまなメーカーのコンドームを見ながら、「あ、僕これ使ってる」「僕はこっち」とか話していたんです。SNS ではコンドームを着けずにセックスをする子たちの投稿も多くて心配していたんですけど、セーファーセックスを実行している若い子の会話を直に聞いて、活動していて本当によかった! って嬉しくなりました。自分自身のためにも相手のためにも、より多くの人が予防行動をとって欲しいと思います。そのためにも情報発信を続けていきたいと思います。

誰もが自分らしく生きられる社会に

 

-行政との協力関係について教えてください。

舩石さん 福岡市とは2カ月に1回ミーティングを行い、日常的にメールのやり取りもしています。担当者は僕たちと一緒に活動しようという気持ちで、僕たちの意見や要望にも真摯に対応してくれます。協働としては前述した世界エイズデーの休日特例検査で、長年HACOが広報を委託されています。

-これからどのような活動をしていきたいとお考えですか?

舩石さん 検査イベントをやりたいと思っています。HACOはマンションの1階にあるのですが、4、5年前に行政と協働で予約なしの匿名・無料検査を実施したとき、通りすがりの人がぷらっと来て、「今まで受けたことないから受けてみようかな」と検査をしていきました。またそういうことができたらいいですね。
 実際に計画が進んでいるのは「クリニック検査」です。保健所の検査は曜日や時間が限られていて、なかなか受けられない人もいます。そういう人たちのためにまずはキャンペーンとして行う予定です。
 検査の機会を増やして気軽に受けられるようにすることが大事だと思います。2020年度から2022年度まで厚生労働省の研究班と共同で無料・匿名の郵送検査にも取り組みましたが、コロナ禍で保健所が検査を行えないこともあり、検査キットを求めて来館する人も多く、とても有意義でした。

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-今後の展望や抱負を聞かせてください。

舩石さん 僕は、誰もが自分らしく生きられる社会になったらいいなあと思ってこの活動をしています。LGBTQ+についても理解してくれたらうれしいけど、それを押し付けたくはありません。平等に尊重して欲しいと思っています。
 コロナ禍以降、SNS やアプリが急速に普及して、HACOに来なくても人に出会えるようになったことが影響しているのかもしれませんが、来館者が減少傾向にあるのが気がかりです。来館者数の減少はコミュニティセンターの存続にかかわりますし、何よりも正しい情報につながる機会が減ってしまうのではと心配しています。
 一方で、初めての来館者が増えてきています。来館のきっかけはSNSで知った事だったり、誰かに連れてきてもらったりとさまざまですが、そのあと1人で来るようになり、なかにはボランティアとしてお手伝いしてくれる人もいます。
 みんなが参加したいと思うようなイベントをスタッフと一緒に試行錯誤しながら企画して、福岡で唯一のHIV/AIDSの情報発信場所ともいえる活動を継続させていきたいと思っています。

-ありがとうございました。


福岡コミュニティセンターHACO http://loveactf.jp/

NGO(非政府組織)として2002年に設立。HIV/AIDSや性感染症の予防啓発と、セクシュアル・マイノリティの居場所づくりを柱に活動している。厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策制作研究事業に協力。

舩石 翔馬(ふないし しょうま)

1990年生まれ。大学卒業後にHACOと出合い、ボランティアとして活動に参加。2018年より代表を務めている。

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(注)ツイッター:2023年7月24日より「X(エックス)」