東北・仙台でHIV/AIDSの正確な情報発信を! 踏み込みすぎない支援を心がける

2023 年 6 月 28 日

Tokyo Sexual Health インタビュー

community center ZEL ボランティア・チーム「やろっこ」 代表 太田 ふとしさん

東北・仙台のゲイ・コミュニティを中心にHIV/AIDSについての正確な情報を届ける活動を行うボランティア・チーム「やろっこ」。現在、やろっこはゲイ・バイセクシュアル男性向けの「community center ZEL」の運営を任され、HIV/AIDSについて考えてもらう機会である「コンドームまつり」や、「R -35」という大人のゲイライフを語り合う会などを定期的に催しています。その活動内容や東北のゲイカルチャー、行政との協力関係などについて、代表の太田ふとしさんにお話をうかがいました。

コンドームの無料配布で活動をスタート


-団体名「やろっこ」の意味と、設立の経緯を教えてください。

太田さん 「やろっこ」は、仙台地域の方言で「男の子」という意味です。もともとは「東北HIVコミュニケーションズ」という、主に電話相談を行う団体(現在は解散)のなかのボランティア・チームとして2004年に発足しました。当初の名称は東北HIVコミュニケーションズのゲイボランティア・チームの頭文字をとって「THCGV」でしたが、なかなか覚えてもらえなかったため、愛称として考えたのが「やろっこ」です。現在は「やろっこ」が正式名称となり、団体としても独立しています。

-どのような活動をされてきたのでしょうか。

太田さん 設立直後から行っているのがコンドームの無料配布です。ゲイの人向けの商業施設に置いてもらったり、以前はゲイの人がよく集まるビーチで配布したりしました。ビーチでの配布は「ラブビーチプロジェクト」と名付け、ビーチの清掃活動とセットで東日本大震災の前まで行っていました。
 現在は、2010年から運営を任されている「community center ZEL」の活動が中心となっています。東北・仙台のゲイ・コミュニティを中心にHIV/AIDSについての正確な情報を発信しています。具体的にはHIV検査情報、ゲイタウン情報、イベント情報、サークル情報の提供、コンドームの無料配布などを行っています。2015年には、セクシュアリティに関する活動をしている団体とともに、「東北レインボーSUMMERフェスティバル」を開催しました。

多様な年代、多様な層に情報を届ける


-開催しているイベントの内容など教えてください。

太田さん 先ほども話に出ましたが、コンドームの無料配布の延長線上にあるのが「コンドームまつり」で、毎年春頃に開催しています。さまざまな種類、サイズのコンドームを展示し、実際に触って自分に合う素材やサイズのものを見つけてもらおうという取り組みです。コンドームのサイズは、長さだけでなく直径も大切。大阪の「community center dista」から直径を測るコンドームメジャーを提供してもらっており、参加者はそれを使って楽しみながらチェックしています。話題になっている商品は、来場者の関心も高いですね。このような比較的新しい商品は高価格なため、ここでサンプルをもらって試してから購入を考えている人も多いようです。2021年からはSNSの動画で商品の伸びやゼリーの粘度を比べたり、模型を使って装着方法を解説したりしていますが、特徴をもっと知りたいなど視聴者からかなり反応がありました。

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コンドーム祭りの展示の様子

 「R-35 35歳からのGEY LIFE」は、今後の人生設計、介護や相続、生活習慣病、EDなど、若い頃とは違う悩みを話せる場です。セクシャルヘルスに関しては、PrEP(曝露前予防内服)のことも話題にのぼります。またHIV検査についても、しばらく受けていない人には、「何かの病気で手術が必要になったときHIV検査で陽性が分かったら二重でショックですよ」などの会話が交わされます。参加者数は少ないものの、60代、70代の人も参加しています。
 「アンダーウエアパーティー」は、性的にアクティブな人たちにHIVなどの情報を届けるために企画したイベントです。実は、ZELの来館者は性的にアクティブではない人が多く、それはちっとも悪いことではないのですが、学習会などばかりしている堅苦しい場所と認識されてしまうと来館者が増えないのではないか、さらには性的にアクティブな人たちにZELの情報がシャットダウンされてしまうのではないか、といった心配がありました。そこを打開するための企画の一つが「アンダーウエアパーティー」です。同様の趣旨で「コンドームまつり」の際に利用するSNSなどに使用する画像なども、ちょっとセクシャルなものを意識して選んでいます。

カミングアウトしている人はまだ少ない


-ZELは通常の開館時間中、女性やストレート男性(異性愛男性)の入館を制限していますが、理由があるのでしょうか。

太田さん 東京などとは違い、ゲイであることをカミングアウトしている人は少数です。ZELをオープンな場にしてしまうと「知っている人に会うかも」と不安に思い、来館されなくなることも考えられるので、ZELの利用はゲイ・バイセクシャル男性に限っています。「やろっこ」のメンバーも全員ゲイです。仙台や東北のゲイバーの多くはゲイ以外のお客さんを受け入れていません。
 ただ、通常の活動のほかに「ZEL Rainbow Hours」など、さまざまなセクシュアリティの人が集うイベントもときどき開催しています。

-仙台市にゲイバーはどのくらいあるのです?

太田さん 現在9店舗です。そのすべてでコンドームを置いてもらっています。東北全体では20店舗弱がコンドームの無料配布に協力してくれていて、全店舗へのあいさつ回りも終えています。

-他県からZELに来る人はいらっしゃいますか?

太田さん 決して多くはないですが、いらっしゃいます。また、仙台あたりですと東京へ行く人も多いですね。2016年に、東北のLGBTを対象に行った調査で、「過去6カ月間に、東京に仕事・観光などで一度でも行きましたか」という質問に対して、6割の人が「はい」と回答しています。実際に話を聞くと、東京でゲイバーに行ったり、PrEPのための受診をしたりしているようです。仙台市にはPrEPを受けられる医療機関がありませんので……。
 東北の人がよく行くのは上野や浅草のゲイバーです。仙台から浅草に自分の店を移転した人がいるので、その人のつながりで近隣のゲイバーにもコンドームやフリーペーパーを置いてもらったりしています。狭いコミュニティであるからこそ、つながりを大切にしたいと思っています。

HIV対策に積極的な仙台市と強い協力関係を築く


-仙台市との協力関係について教えてください。

太田さん 仙台市はHIV/AIDS対策に積極的で、検査体制をしっかり整えてくれています。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、市のHIV検査の枠が減ってしまったときも、厚労省のエイズ対策研究事業で行っていた郵送検査の広報活動に予算を回してくれました。おかげでより多くの人に郵送検査のことを知ってもらうことができ、検査数の維持につながりました。
 保健師さんと意見交換をする機会も多く、梅毒が増えてきたときに「梅毒検査もできたらいいんだけど……」という話をしたら、次年度から梅毒検査もHIV検査と同時に受けられるようになりました。梅毒検査を加えたら、一時落ち込んでいたHIVの検査数が回復しました。今後はクリニック検査の普及にも取り組むということなので、市のHIV予防に対する熱心な姿勢、迅速な対応に感謝しています。
 保健師さんたちは多忙ななか、ZELが開催するPrEPの勉強会にもよく参加してくれます。日本エイズ学会などの学術集会には、なかなか参加できないので、私たちが参加したときはそこで得た最新の情報をシェアするなど、協力し合っています。なかにはHIV検査を勧めるポスターを手作りしてくれたりと、予算がなくても熱意がある方が多くて非常に心強いです。

どう行動したいのか、その人の選択を尊重する


-太田さんたちが、活動をする上で最も大切にしていることは何ですか?

太田さん 私たちの活動の目的は、「ゲイ・コミュニティを中心にHIV/AIDSに関する正確な情報を届ける」ことです。情報を届けるだけでは行動変容が起こらないのではないか、と言われることもあります。しかし、人の行動はそう簡単に変わるものではありませんから、行動を変えるきっかけになるかもしれない情報を伝えるということに徹底しています。情報を受け取った人がどう行動するか、どう行動したいかというところはその人の意思を尊重したいと考えています。
 以前、「そろそろ『とりあえず生(ナマ)』を卒業しよう」というポスターを作ったときも、「積極的にコンドームを使用しよう」と主張するのではなく、コンドームを使ってほしいと思っても相手に伝えられないまま流されないでほしい、自分が主体になって選択したりしてほしいという気持ちを込めました。
 「啓発」という言葉もあえて使わないようにしています。相手の考えや意思に踏み込み過ぎないということに気を付けています。ZELが主催するイベントの手伝いも、「楽しそうだから」という気持ちで気軽に参加してくれるのがいちばんよいと思っています。

-課題や今後の展望を聞かせてください。

太田さん コミュニティセンターZELは、厚労省の委託事業(同性愛者等向けコミュニティセンターを活用した広報等一式)で1年ごとの契約なので、次年度も継続できるかは、毎年年度末の3月後半にならないと確定しません。そのため、常勤スタッフに安定した雇用を約束できないのです。現在常勤で働いているのは、70歳を超え年金を受給している1名です。ほかのスタッフはボランティアで、私も別の仕事を持っています。継続が保証された事業になれば、イベントもより計画的に行うことができ、長期的な視点で事業を展開できると思います。
 一方で、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が2025年の達成を目指すエイズターゲット(2025 AIDS TARGET)で掲げた「95・95・95」が達成されれば、コミュニティセンターの役割は終わるのか、とも思っています。ですから、若い世代に活動を引き継いでもらうとか、そのために人材育成をするという考えはあまりありません。ボランティアも自分ができる範囲でやってくれればいい。HIVの流行を抑えることができれば、コミュニティセンターの活動も終わるもの。そのような意識で、いまできることをやっています。

-ありがとうございました。


ボランティア・チーム「やろっこ」 http://sendai865.web.fc2.com/top.html

東北・仙台のゲイ・コミュニティを中心にHIV/AIDSについての正確な情報を届ける活動を行うボランティア・チーム。2010年より「Community center ZEL」の運営を受託。

太田 ふとし

1974年生まれ。2008年より「やろっこ」代表。

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参考
・Community Center ZEL http://sendai865.web.fc2.com/zel.html