セックスワーカーは労働者 健康で安全に働ける環境が必要

2022 年 8 月 4 日

Tokyo Sexual Health インタビュー

SWASH げいまきまき さん

セックスワーカーとは、性風俗産業で性的サービスの提供をして働いている成人をいいます。しかし、セックスワークを「仕事」として捉える人は少なく、セックスワーカーが「労働者」として認められ、その権利が守られているかというとそうではないのが現状です。労働者としての基本的な権利を獲得するためには、当事者を含む内側からの声とともにその声に耳を傾け受け止める社会が求められます。

「SWASH(スウォッシュ)」は、セックスワーカーの健康と安全を守るために、労働環境の改善をめざして活動している元/現役セックスワーカーと支援者のグループです。そのメンバーである、げいまきまきさんにお話をうかがいました。

当事者の視点で情報提供や政府への働きかけを行う


-SWASHの活動内容について教えてください。

げいまきまきさん SWASHはセックスワークの当事者と支援者のグループです。根っこにあるのは、セックスワーカーが何を必要としているかという当事者の視点。それぞれが仕事で困っていることなどを共有し、改善するために活動しています。
セックスワーカー向けのイベントや勉強会で、健康や安全を守るための知識やスキルを伝え、横のつながりをつくる支援をしたり、風俗店に対してパンフレットや現場講習で労働環境に関する情報を提供したり。労働相談も重要な活動ですが、現在はコロナ禍のため、対面のイベントはお休みです。ほかにも、医療機関や研究機関の研究・調査への協力、行政の事業への参加、ロビー活動など幅広い活動を行っています。

ロビー活動は自国の政府や国際機関に働きかけをすることですが、「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金」で性風俗業や接待を伴う飲食業の関係者が対象外とされたときは、見直しを求める要望書を厚生労働相に提出し、セックスワーカーも支援対象に加えることができました。また、新型コロナウイルス対策の「持続化給付金」についても性風俗業者であることを理由に受け取ることができないのは、憲法が保障する法の下の平等に反するとして風俗店経営者が原告となり訴訟を起こし、SWASHは応援しています(2022年6月30日、東京地裁は、請求を棄却しています)。

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-SWASHでは「赤い傘」というメディアを2021年4月にリリースされました。これはどのようなものですか?

げいまきまきさん セックスワーカーに役立つ情報、必要な情報に特化したサイトです。労働関係の法律や風営法、社会保障制度、確定申告の知識、性感染症や性暴力の予防、対応なども含め、わかりやすい記事や動画で紹介しています。
「赤い傘」のコンテンツのなかには、「Tokyo Sexual Health」と協力して作った動画『素股動画10本+1本』があります。素股は性器を挿入しない性行為ですが、性感染症のリスクを軽減するため、粘膜の接触を極力避けながら、いかに相手に満足してもらうかのテクニックを具体的に紹介しています。

-動画を拝見して、誰でも抵抗なく視聴できるように、とても工夫されていると感じました。

げいまきまきさん いちばん重視したのは、この動画を見るセックスワーカーたちが受け入れやすいものにすることでした。ディレクターの映像作家ジダーノワ・アリーナさんがさまざまなアイデアを出してくれて、男性器をカラフルなキノコで表現していますが、これも全部手作りです。制作後に、アリーナさんから「この動画制作にかかわることができて幸せ」といってもらえて、私たちもとてもうれしく思いました。

セックスワーカーの労働環境が改善されにくい理由とは


-セックスワーカーの労働環境について、問題点を教えてください。

げいまきまきさん 1998年の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)の改正(一部の規定を除き1999年施行)以降、無店舗型(デリバリー型)の営業形態が増え、現在はデリバリー型が圧倒的多数です。デリバリー型は客が指定するホテルや住居へ出向きサービスを行うため、店舗型以上に密室性が高まります。相手から過剰なサービスを強く求められたり、暴力を振るわれたりしても、助けを呼ぶことが難しい状況になり、その点が問題です。
また、被害に遭った場合でも、警察に被害を届けても相手にされないのではないか、かえって罪に問われるのではないかという心配から、泣き寝入りしてしまうケースが少なくありません。

-健康と安全の保障という労働者の権利が守られにくい環境ですね。

げいまきまきさん その背景にあるのが1956年に制定された売春防止法です。売春防止法では、「売春」を「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」として禁止しています。膣ペニス性交で対償を受けると違法となる事実が存在していて、現実ではなくすにも長い時間と議論が必要と思われます。しかし、「売春防止法」がこのことを禁止していることから、その形式でセックスワークを行う人をより脆弱な立場に追い込みます。その代表的なものが「どうせ警察に届けられないだろう」と相手に足元をみられることです。

しかし、サービスを提供して対価を得ているのですから、セックスワーカーも労働者。働くうえで、健康と安全が保障されるのは労働者として当たり前の権利です。売春防止法のもともとの目的は「善良な風俗の維持」と「立場の弱い女性を守ること」ですが、現在ではむしろセックスワーカーの立場を弱くしている面があることは否定できません。

売春禁止法における「性交」は膣ペニス性交を指すので、肛門性交や口腔性交などの「性交類似行為」は含まれない。

貧困問題と労働環境の改善は別の議論


-セックスワークに従事する理由として多いのは何ですか?

げいまきまきさん お金であることは確かですが、それはどんな仕事でも同じだと思います。セックスワークは、ある程度、時間の自由がきき、家事や育児や介護、学業などとの両立が比較的容易で、副業としても行うことができます。私の場合は、「SMクラブの女王様求む」という求人広告を見たのがきっかけです。「女王様? なんだろう?」と好奇心を刺激され、アルバイトを始めました。

セックスワーカーというとどのような人物像を思い浮かべますか? 実際にはさまざまな年齢、容姿、性的指向・性自認の人がセックスワーカーとして働いています。セックスワーカー/セックスワークの世界は労働者としての権利が守られるようになれば、究極のダイバーシティということができるのではないかと私は思っています。

-貧困や、ほかに選択肢がないためにセックスワークをしているというのは、思い込みなのでしょうか?

げいまきまきさん そうですね。ほかに選択肢があればそちらを選びたいという人は確かにいるでしょうし、シングルマザーやシングルファーザー、学生、介護中の人に対する経済的支援やリスキリング支援が充実したり、ジェンダーギャップが解消したりすれば、セックスワークを選ぶ人は減るかもしれません。しかし、皆が仕方なくセックスワークを選んでいるわけではなく、いくつもの選択肢のなかからセックスワークを選んでいる人もいるのです。お客さんによろこんでもらえたとか自分のスキルが上がったとか、セックスワークにも仕事のやりがいや充実感はあります。

一方で、セックスワーカーが偏見や差別、つまり「スティグマ」の対象になりやすいことは事実です。スティグマは「烙印」などを意味し、周囲から否定的な意味づけをされ、不当な扱いを受けることをいいます。セックスワーカーが労働者として理解されない理由は、売春防止法など法律的なことだけはなくスティグマが強く影響していると考えられます。

セックスワークはお金に困っている人が仕方なく就く仕事だという思い込みは、スティグマの強化にもつながるので危険です。
どんな仕事をしていようが、就業しているか否かにかかわらず、福祉や教育を充実させて貧困をなくすことは重要なことです。しかしこの問題とセックスワーカーの労働環境を改善することは別の議論です。大切なことは、セックスワークに就く理由にかかわらず、セックスワーカーも健康かつ安全に働く権利をもつ労働者であるという事実を共有することだと思います。

1人の人間としてのセックスワーカーを尊重する社会をめざして


-いまいちばん伝えたいことをお願いします。

げいまきまきさん 皆さんに理解してほしいのは、セックスワーカーも1人の人間であり、仕事中もそうでないときもひどいことをいわれれば傷つくし、身体に暴力的な扱いを受ければ痛いし、切られれば血を流すということです。

ハラスメントや暴力が許される仕事はどこにもありませんが、セックスワーカーに対してはそのことが忘れられがちだと感じています。
セックスワーカーの健康と安全を保障する法律が整備され、スティグマが解消することを私たちは望んでいます。それが実現すれば、仕事を隠さなければいけないという強迫観念も減っていくでしょう。現役のセックスワーカーも、すでに仕事から離れた人も、セックスワークに従事していたことを親しい人にも話していないという人はたくさんいます。それは人間関係を円滑にしていきたいということからですが、自分を語ることができないというのは、孤独を強め孤立していくことにもなるのです。

-性的サービスを受ける人に伝えたいことはありますか?

げいまきまきさん あなたが受けているのは、1人の人間が心を込め、身体を使って提供する性的サービスです。お互いを大切に扱いましょう。
そして、性感染症についても正しい知識をもち、気になる症状があったらすぐに検査を受けることが、性的サービスの提供者やあなたの健康を守ることにつながります。

-最後に、セックスワーカーやこれからセックスワークに就こうという人にメッセージを。

げいまきまきさん セックスワーカーのためのグループがここにある、私たちがいるということを知ってほしい。SWASHではイベントや勉強会、「赤い傘」やSNSによる情報発信などの取り組みをいろいろと行っています。何か困ったことがあったら思い出してほしい。グチでもいいです、心の内にあるモヤモヤをそのままにしないで投稿したりするだけでも気持ちが少し楽になることがあると思います。
セックスワーカーとして働いているときも、セックスワークを離れてからも、人生は続きます。コロナ禍の影響ですごくつらい状況にある人もいるかもしれないけれど、何とか生きていく方向を選んでほしいと思います。私たちはそれを支援します。

-ありがとうございました。


SWASH(Sex Work And Sexual Health)

げいまきまきさん 1999年に発足した、セックスワーカーが安全・健康に働けることを目指して活動するグループ。セックスワーカーのためのメディア「赤い傘」などを運営する。セックスワーカーの国際的なネットワーク「Global Network of Sex Work Projects (NSWP)」にも所属。「日本在住のセックスワーカーにおけるHIV、STD関連知識・行動及び予防・支援対策の開発に関する研究」(厚生省HIV疫学研究班セックスワーカー研究部ループ)、「性風俗に係る人々のHIV感染予防・介入手法に関する研究 女性セックスワーカーの意識・行動調査」に研究協力者としてかかわる。

げいまきまき

女優、パフォーマー、元セックスワーカー。セックスワーカーに従事していたときにSWASHと出合い、2012年ごろからメンバーとして活動に参加している。

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タイのセックスワーカー支援グループ「Empower」のイベントでパフォーマンスを行うげいまきまきさん

 

参考
・SWASH https://swashweb.net/
・赤い傘 https://akaikasa.net/
・『セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働』SWASH編(2018年9月/日本評論社)